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 重厚な扉が、先程までマントルピースの在った場所に聳え立ってい
ました。ルイス様の蔵書のパリの建築史に収められていた銅版画と、
良く似た扉です。大理石の天使達が、招くようにアリスに微笑みかけ
ていました。
 そっと手を添えると、蝶番がギィと重く軋みました。少しだけ力を
入れた瞬間、向こう側から誰かが強く引いたかのように、勢いよく扉
が開かれ、アリスは支えを失って倒れ込みました。
 強かに打った膝を擦りながら顔を上げると、目の前には、開いた筈
の扉が、固く閉ざされたまま素知らぬ風情で佇んでいます。
 辺りを見回せば、扉以外は、何も変わらぬアリスの家の居間です。
「行く場所が見えなければ、辿りつけないよ。」
 扉から見下す左の天使が、アリスに語りかけてきました。

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