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問うより早く、肖綺が唐突に週末の予定を尋ねた。

外出許可を、王子朗の分も取ったから、出かけないかという強引な誘いに、苦笑する。

肖綺は、無神経なほどに屈託ない。

・・・いい子だよ、お前と気が合うのじゃないかな?・・・そう言ったのは誰だったか。

「いいよ」

それ以外の返事を待ってなかった肖綺は、王子朗に極上の笑みを返した。




会場は、迷途(maze)だった。

(はぐ)れないようにと、肖綺は、王子朗の手をしっかりと握って離さない。

そうしながら、事前に案内図を頭に叩き込んでいるのか、肖綺は、迷うことなくお目当てらしきブースを渡り歩いてゆく。

外国の血の混じった2人の少年の明るい髪の色は、外出に義務付けられている制服着用と相まって、人目を引いた。

勘弁してほしい・・・。

繋いだ手を、可笑しそうに見ている周囲の視線に、王子朗は頬を赤らめて目を伏せる。

肖綺の無神経は、王子朗の羞恥に気がつかない様子で、ブースに足を止めては、蘊蓄(うんちく)を語ってくれる。

外国映画のフィギュアを集めている事は知っていたが、これは、結構な傾倒ぶりだ。

会場に溢れ返る人形に、王子朗は軽く眩暈(めまい)する。

あぁ、しかし、以前、祖父が連れて行ってくれた英国の迷途でも、こんな感じだった。

碧の間隙(かんげき)で泣きだした幼い王子朗を、やはり、しっかりと手を握ってくれた、・・・王子朗を叱りながらも、決して離そうとはしなかった・・・前を行く・・・祖父ではなかった・・・あれは・・・誰だったか?

眩暈の淵で、何かが王子朗を捕えた。

足を止める。

肖綺が、何?と振り返る。

人形の渦の中で、それが、それだけが、王子朗を見ていた。

行くよ?と手を引く肖綺に、王子朗は2・3歩よろける。

行かせまいとするかのように、眼差が、王子朗に追い(すが)ってきた。

その場に止まる為に、王子朗は肖綺の手を振り解いた。

立ち(すく)む友人の視線の先を追って、肖綺は、1体の外国製の人形を見た。

美しい顔立ちの少年人形が、碧灰の瞳で見返した。

「僕を見てる・・・。」

喘ぐように、王子朗は言葉を漏らした。



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