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alive 2
『彼はいい子だょ、お前と気が合うんじゃないかな。お前が幸せである事が、僕には一番嬉しいんだょ』
王子朗の瞳が渺に曇る。
『…今日のお前の言葉は、その次位に嬉しかったよ』
真昼の蒼穹に輝きが宿るのを見届けると、背を伸ばし、小さな肩に手を添えて退出を促す。
『もう休みなさい、明日、起きれないと、窓から僕を見送れなくなる』
寄宿舎に帰る朝、いつも、弟がカァテンの隙間からひっそりと見送ってくれている事を知っていた、知っていた事を伝えるのは、明日が無いからだ。
気づかれないように、けれど、気づいていて欲しいとは願っていた王子朗は、至福の笑みを浮かべ、浮かべてしまった事を少し恥じ、頬を赤らめながら、就寝の挨拶をした。
煌は、身体の重みで扉を閉め、遠ざかっていく軽やかな足どりに耳を欹てた。
小さく扉が開閉する音を確認すると、振り返り、いつの間にか天蓋付きの寝台に身を投げ出している遣い魔に声をかけた。
『暇乞いを待ってくれるなんて…優しいな』
魔は、機械仕掛けの人形のように跳ね起きて、顔の半分を歪めて笑った。
『それに比べて、お前は残酷だよな、死に際まで、素晴らしい兄様を演じきって、弟の記憶に傷を残すのか? 生きてきた証に?』
言われて初めて、煌は、弟の独り立ちを望んできたつもりだったが、善き兄として記憶に残りたいという願いが底にあったかもしれないと、短い半生を顧みた。
『だが、それは赦さないぜ。 お前を連れていく時は、お前の痕跡は一切残さない』
写し身が醜悪に表情を歪める様は、自分の負の闇を見せつけられるようで、煌の心は冷える。
『お前の記憶なんざ、舌打ち一つで、弟君から消してやる、母親からも、爺からも、関わった全てから…だ!』
謡うように、魔は続ける。
『お前は元から居ない、生まれなかったんだ、どうだぃ? お前の今までの精一杯の虚勢は、何の意味もなかったんだよ!』
ふっと煌の口許に笑みが浮かんだ。
不審に魔が黙り込み、代わりに煌が口を開いた。
『今の言葉を違えるなよ、望む所だ』
魔が、煌の冷静に、金切り声を上げる。
『平気ぶってんじゃねえよ!本当は怖いんだろ! 命乞いしろよ! 泣いて縋って見せろよ!』
魔が激昂する程に、煌は冷めていく。
自分が居なくなっても、小さな弟が歎き悲しむ事がない、繊細な母親が狂乱する事もない、そんな配慮を自ら持ち出す魔は、皮肉でなく優しい、天の使いではないのかと、勘繰る程に。
『…もぅいい、連れていけ』と、煌は瞳を閉じた。
羽が開くような音がした…と思うと、柔らかな暖かいモノが、ふわりと煌の身体を抱いた。
瞼の裏で、小さな光が螺旋を描きながら、薄い紗となって煌を絡めとる。
苦痛は無かった、恐怖も…感情は何処かへ消え去り、生まれる以前に知っていた心地好い湿潤に満たされて、自我が小さく縮んでいくのを意識する。
その意識さえも快感に薄れ消えていく。
最後に手放した思いは、あの色鉛筆で弟はどんな絵を描くのだろうか…という、他愛のない想像だった。
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