美しい碧灰の瞳は、謎のように王子朗を見返す。

見慣れた兄の瞳の筈が、何故だろうか奇妙な違和感があり、それが、何処か遠く深い淵に連れ去られてしまいそうに、王子朗を魅了する。

廊下の奥端の生徒会室から、肖綺が顔を出して大声で呼ばわった。

「王子朗も早く来いって! 手伝えよ!」

「今行くよ」

振り返って、代わりに煌が応えた。

腕を支えるように、王子朗を立たせる煌は、いつもの煌だった。

「行こう」と、背に手を沿える仕草も、弟を見る節度を保った微笑みも。


古い寄宿舎の廊下に、窓から6月の碧が、光の欠片となって乱反射し、カレイドスコープの底を模す。

兄と並んで歩きながら、王子朗は、幼い頃、手を引かれて彷徨った英国庭園の迷路を思い出した。

そして、今尚、彷徨の中に居るような錯覚に眩暈する。



再び、肖綺が「早く!」と2人を呼んだ。




END











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