4

 留守番は、思っていたより淋しくはありませんでしたが退屈でした。
早い夕食を取って、ルイス様が教えてくれたカード遊びに飽きてしま
うと、もう、する事が見つかりません。
 アリスの玩具匣にしまってある本は、もう、諳んじてしまうくらい
読み返してしまっています。お姉様の書架に並ぶ美しい表紙の本は、
アリスにはまだ早いからと、見る事を許されていません。
「みんな、いつまで、私を小さい赤ちゃんだと思っているのかしら」
 ルイス様だけは、時々、大人の蔵書を読ませてくれて、アリスが
シェークスピアを上手に朗読すると、大仰に称賛して抱きしめてくれ
ました。そのルイス様が、今夜に限っては味方になってくれず、その
事がアリスには、手酷い裏切りにあったように感じられるのでした。
 でも、今更恨み言を口にしても、どうなるものでもありません。

5

 気を逸らすために、アリスは
カード遊びの続きをしようと
椅子に坐り直しました。
 象牙色のテーブルに散る
薄水青の紙片の中で、
ハートの女王だけが、
こちらを斜めに見ていました。
「あら?」
 アリスは思わず小首を傾げました。
 さっき中断した時には、
もっと表に返っているカードが、
あったように思います。


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