6
 カードに伸ばしかけたアリスの指が、
ピクリと止まりました。
 女王の微笑みの下から、
薄荷色小さな何かが覗いていました。
 早打ちする胸を押さえて、
指先でそっと摘み出すと、それは、
百合の紋章の蜜蝋で封印された
小さな小さな手紙でした。
 裏書きには、U.Y.I.と署名があります。
 知らないイニシアルです。
 表に返すと、「アリスへ」と
細い銀色の文字で宛名がありました。
7

「これは、私への手紙よね。」
 開封するペーパーナイフをお姉様の書架から借りてこようと、席を
立ちかけたアリスを、金色の煌きが引き留めました。
 さっきまで裏返っていた筈のスペードの王子様が、栞を兼ねた小さ
な小さな薔薇のペーパーナイフを握っていました。
     イルージョン
 ルイス様の手品を見ているようです。
         アリスが退屈しないようにと、ルイス様が、そこ
         ここに、枢仕掛けを施していったのでしょうか。
         王子様からペーパーナイフを取り上げて、小さな
         封筒を切り開くと、薔薇に縁取られた二つ折りの
         紙片が入っていました。


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