or 2


今度は、煌に微笑みが浮かんだ。

『死神の癖に、優しい事言うんだな』

『神じゃない、ただの遣いだ』

少年は几帳面に訂正を入れた。

庭の向こうの玄関から、重いタイヤの軋む音が聞こえた。

煌と少年が、同時に窓の外を伺った。

向き直ったのは少年の方が、少し早かった。

少年に手首を捕まれ、煌は、そのまま引き寄せられた。

間近に見た端正な少年の顔が、煌の記憶の淵を敲いた、誰かに似ている…だが知らない。

『もう少ししてから、迎えに来るよ、お前の魂が自傷行為でずたずたになるまで、待って…』

更に少年は顔を寄せた。

螺旋に囲まれた美しい虹彩に、術に罹ったかの如く魅せられて、煌は瞳を閉じた。

『約束だ』

再び瞳を開けた時、少年の姿はなかった。

捕まれた手首には、細く冷たかった指の跡が薄らと、唇には、奇妙に温かい感触が生々しく残されていた。


『煌!』

廊下の向こうから駆け寄ってきた祖父が、衝動的に、取り残された忘れ形見の腕を掴んだ。




英国庭園の迷路で、煌は、幼い弟の小さな指を引きはがす。

『泣くな!』

そして改めて、弟の手を握って、歩き出した。

翠の眩暈の中で、出口を捜す、必ず見つける、弟を護るのは自分なのだ




 

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