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翌朝、食堂での祈りの前に、簡単な紹介がなされ、石瑛は級友達に曖昧に認知を受けた。
刺すような侮蔑の視線が、彼を巡り飛び交ったが、それは、予期された範疇だった。
石瑛が来ると聞かされた最初から、普段の僕の傲慢への反感が、石瑛に転化する懸念も抱いていた。
現実に手を下されるとは、考え難かったが。
初めての授業、石瑛の美しいラテン語が、教室の空気を震わせるのを聞きながら、石瑛は無防備過ぎると、微かに不安を覚えた。
語学教師の称賛を、何か不思議な言葉を受け取るように、微かに小首を傾げる石瑛の仕草は、生徒達の鬱屈を刺激している。
僕自身にさえ沸き上がる原始的な衝動から、彼を護らなくてはならない。
しかし、それは後手に回った。
昼休み、下級生に足止めを喰らって、石瑛の姿を見失った。
級友に尋ねるわけにはいかない、問い質す事、それ自体が、今後に影響く。
件の下級生を呼び戻し、階段下の暗がりに引き込んで背徳の口づけを与えると、他愛なく泣き出して共犯を白状した。
急がなくては、しかし急いて見えてはならない。
外庭の沼の畔に建つ図書館へと、一冊、石瑛の蔵書を手に、外階段を降りて行った。
半開きの中扉から、激しく言い争う声が聞こえた。
間に合った。
「何をしている?」
疑問形で場を止めた。
そして、やはり、少し遅かったと、石瑛の無惨な姿を見て臍を噛んだ。
石瑛を机に這わせて組み敷いていた級友は、狼狽して身を引き、自らの欲望を服の奥に押し込めた。
囃し立てていた仲間も、服の上からも伺える興奮りを手で隠す。
滑稽だった。
唐突に引かれた反動で、石瑛の身体は、床に落ち、反転した。
半分脱げかかったシャツの袖で腕が拘束され、膝でまで降ろされたトラウザーズが下半身の自由を奪い、押さえ付けられ赤くなった羽形の肩甲骨と、乱暴に剥き出された双丘がそのまま晒される。
石瑛が藻掻きながら体制を整えようとするのを、袖ごと左手の甲を革靴で踏み止めた、蝶を逃すまいとピン打ちするように。
石瑛から悲鳴が上がった。
囲んでいた級友達が、自分等の狼藉を忘れたかのように怯んだ。
やっと袖を抜いた右手で靴を除けようとする石瑛の、その手を蹴り払い、更に、更に踏みしだく。
悲鳴は懇願の泣き声に変わった。
「彼は不義の子だ。触れれば君等まで穢れる。」
選んだ言葉は、級友達を充分に引かせ、石瑛は、違う…僕は…と余計な声を上げかけた。
封じる為に、水蜜桃のような双丘の分かれ目に、靴先を蹴り込んだ。
小動物のようなくぐもった呻き声あがり、身が攀じられた。
露になった百合の蕾に、身体の芯に嗜虐の火の灯るのを意識した。
火は瞬く間に、理性を焼き払い、自分のこの行為の目的を見失いそうになった。
一番滑稽なのは、僕自身だ。
爪が肉に食い込む程に拳を握り、その手で百合の蕾をすり潰す幻想に堪えながら、無言で、蕾の際を蹴った、幾度も幾度も。
鎮まり返った図書館を、肉を刔る鈍い音と呻き声だけが共鳴した。
疲れて息をつくと、級友の一人が喘ぐように、そんなつもりはなかった…と言い訳をしながら遠回しに、彼等の想像を越えた僕の残虐を止めにかかってきた。
それを無視して、捕われた蝶のように丸くなって、脇腹を痙攣させる石瑛の顎を、靴先で仰向かせると、
「靴が汚れた。お前の舌で綺麗にするんだ。」と命じた。
級友が、僕の肩に手を置いて、そこまでさせては僕の気品が損なわれると、口に出して制止した。
それでいい。
石瑛を傷ぶる資格があるのは僕だけだと、存分に覚っただろう。
石瑛の菫色の視線が、僕に縋ってきた。
微かに僕は笑って見せた。
石瑛は諦めに目を伏せると、痛む不自由な身体で這い寄り、言われるがままに僕の靴先を舐めた。
手にした蔵書を級友に示しながら机に置き、
「返却しようと思って来たのに厭なもの見てしまったな…」と、石瑛に本棚に戻しておくよう命じて、踵を返した。
振り返ることは、級友の手前、出来なかった。
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